生物と無生物のあいだ/福岡伸一 著 メモまとめ

【生物と無生物のあいだ】という本は建築家の文章を読んでいるとたまに引用されることがあり、気になっていた本だった。また、コロナウイルスの世界的な感染拡大や人新世と言われる時代、世界的な環境問題などが深刻化している中、生物とウイルスについて、生物の複雑・秩序、様々なもの(人間、非人間、生物、無生物)をフラットに見る視点などのヒントが得られないかと思い本書を読んでみた。

ルール
「」…本書からの引用
『』…本書内での引用
<>…本書内での「」など


プロローグ

「生命とは何か?それは自己複製を行うシステムである。二十世紀の生命科学が到達したひとつの答えがこれだった。」

「生命というあり方には、パーツが張り合わせれて作られるプラモデルのようなアナロジーでは説明不可能な重要な特性が存在しいている。ここには何か別のダイナミズムが存在している。私たちがこの世界を見て、そこに生物と無生物とを識別できるのは、そのダイナナミズムを感得しているからではないだろうか。」

→生命とは何か?生物と無生物を識別することができる何かを見つけることが本書の目的の一つであり、それを筆者の体験などを交えながら生命科学の物語に触れながら探していくという本である。

第8章 原子が秩序を生み出すとき

「小さな貝殻が放っている硬質な光には、小石には存在しない美の形式がある。それは秩序がもたらす美であり、動的なものだけが発することのできる美である。」

「動的な秩序。おそらくここに、生命を定義しうるもう一つの基準(クライテリア)がある。」

「生命現象に参加する粒子が少なければ、平均的なふるまいから外れる粒子の寄与、つまり誤差率が高くなる。粒子の数が増えれば増えるほど平方根の法則によって誤差率は急激に低下させうる。生命現象に必要な秩序の精度を上げるためにこそ、<原子はそんなに小さい>、つまり<生物はこんなに大きい>必要があるのだ。」

→<動的な秩序>に生物と無生物の分岐点が存在する。また、構成要素の小ささと多さは生物のリスクヘッジである。

第9章 動的平衡とは何か

「それは高速で入れ替わっている。この流れ自体が<生きている>ということであり、常に分子を外部から与えないと、出ていく分子との収支が合わなくなる。」

秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない。

「もし、やがては崩壊する構成成分をあえて先回りして分解し、このような乱雑さが蓄積する速度よりも早く、常に再構築を行うことができれば、結果的にその仕組みは、増大するエントロピーを系の外部に捨てていることになる」

「つまり、エントロピー増大の法則に抗う唯一の方法は、システムの耐久性と構造を強化することではなく、むしろその仕組み自体を流れの中に置くことなのである。つまり流れこそが、生物の内部に必然的に発生するエントロピーを排出する機能を担っていることになるのだ」

生命とは動的平衡にある流れである。

→生きていること=エントロピー増大の法則に抗うこと=持続すること、これは崩壊する前に構成要素を分解して、再構築するということである。(建築も小さな素材の集合でありエントロピーが増大している。しかし、現代の建築は構成要素の分解・再構築に大きなエネルギーを投じる必要があり、解体のエネルギーと比較した際に解体の方が選択されやすい。また生物はそれぞれの細胞に設計図とプログラムが入っているところが持続できているヒントであると感じる。
建築の持続可能性を考える際に、分解・再構築がしやすい建築の周囲のシステム(エネルギー投入のされやすさ)と分解・再構築の省エネ性をつくる必要がある。(メタボリズムは分解・再構築の思考の元、デザインされたが、周囲のシステムとエネルギーの膨大さゆえに挫折したと思われる。)

第10章 タンパク質のかすかな口づけ

「それでは、<柔らかな>相補性、つまり弱い相互作用を示すタンパク質が、ついたり離れたりして成立する相補性にはどのような特性があるのだろうか。それは外界(環境)の変化に応答して自らを変えられるという生命の特徴、つまり可変性と柔軟性を担保するメカニズムとなりうる点にある。」

「環境変化に対する生命の適応と内的恒常性の維持は、すべてこのようなフィードバックループによって実現される。柔よく剛を制す。まさに<柔らかな>相補性が生命の可変性を担っているのである」

→フィードバックループによって環境変化に応答して可変可能な柔らかいシステムが生命の持続性を生む。

第15章 時間という名の解けない折り紙

「致命的な欠落ではなく、その欠落に対してバックアップやバイパスが可能な場合、動的平衡系は何とか埋め合わせをしてシステムを最適化する応答性と可変性を持っている。それが、”動的な”平衡の特性でもある。これは生命現象が時に示す寛容さあるいは許容性といってもよい。」

「機械には時間がない。原理的にはどの部分からでも作ることができ、完成した後からでも部品を抜き取ったり、交換することができる。そこには二度とやり直すことのできない一回性というものがない。機械の内部には、折りたたまれて開くことのできない時間というものがない。 生物には時間がある。その内部には常に不可逆的な時間の流れがあり、その流れに沿って折りたたまれ、一度、折りたたんだら二度と解くことのできないものとして生物はある。生物とはどのようなものかと問われれば、そう答えることができる。」

→システムを最適化する応答性と可変性が生命が持つ動的な平衡の特性。これは時間の内に位置付けられ、不可逆的な流れが大きな特徴である。これが機械との差である。


生命の特徴

  • 持続するために秩序は分解・再構築される。
  • その際、フィードバックループによって応答性、可変性、柔軟性を持っている。
  • これらは時間の中で行われ、不可逆的である。
  • 以上のことを内部で賄える。

過去の日本の民家建築やコミュニティはこのような生命的な持続性システムが生きていたが、現在では戦後の住宅産業や資本主義社会に破壊されて成り立たなくなっている。そのような状況で本書は持続可能なモノを考える際のヒントになるだろう。また、秩序について、大きな強力な秩序で全体を統制しようとすると、誤差率が高くなることと、エントロピー増大によって徐々に強度が落ちる。しかし、小さな構成要素で常に秩序を分解・再構築できる仕組みやモノのあり方、システムを考えることがでれば、生物以外の物でも持続可能な物がデザインできるのではないだろうか。生命科学にはまだまだ学ぶべきものがありそうであると感じた。