東京都現代美術館で開催している「オラファー・エリアソン 」による「ときに川は橋となる」展に行ってきました。
「オラファー・エリアソン」はアイスランド系デンマーク人のアーティストで、写真、彫刻、ドローイング、インスタレーション、デザイン、建築など、多くのメディアで自然現象を扱う作品が特徴的である。
Information
会場 | 東京都現代美術館 企画展示室 地下2F |
会期 | 2020年 |
開館時間 | 10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで) |
休館日 | 月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日 |
観覧料 | 一般 1,400 円 |
美術館へのアクセス | 東京メトロ半蔵門線「清澄白河駅」B2番出口より徒歩9分 都営地下鉄大江戸線「清澄白河駅」A3番出口より徒歩13分 東京メトロ東西線「木場駅」3番出口より徒歩15分、または都営バスで「東京都現代美術館前」下車 都営地下鉄新宿線「菊川駅」A4番出口より徒歩15分、または都営バスで「東京都現代美術館前」下車 〒135-0022 東京都江東区三好4丁目1−1 |
所要時間:約2時間
写真撮影:撮影可能
作品数:17タイトル
作品数は17タイトルとなり、1つのタイトルに複数の作品があるものもあります。常設展や別の企画展も観たい場合はさらに時間が必要です。また、コロナのため人数制限がかかる場合があり、比較的人の少ない午前中に足を運ぶとスムーズに鑑賞できます。(順番待ちが必要な作品もあるため、そういった意味でも人が少ない時間帯がおすすめです。)
ときに川は橋となる
本展覧会は、エリアソンの再生可能エネルギーへの関心と気候変動への働きかけを軸に構成されます。それは展覧会のタイトルにも反映されています。エリアソンは言います。「〈ときに川は橋となる〉というのは、まだ明確になっていないことや目に見えないものが、たしかに見えるようになるという物事の見方の根本的なシフトを意味しています。地球環境の急激かつ不可逆的な変化に直面している私たちは、今すぐ、生きるためのシステムをデザインし直し、未来を再設計しなくてはなりません。そのためには、あらゆるものに対する私たちの眼差しを根本的に再考する必要があります。私たちはこれまでずっと、過去に基づいて現在を構築してきました。私たちは今、未来が求めるものにしたがって現在を形づくらなければなりません。伝統的な進歩史観を考え直すためのきっかけになること、それがこうした視点のシフトの可能性なのです。」
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/olafur-eliasson/
展示のサステナブルな連続
こうしたエリアソンのサスティナブルな関心から展覧会の作り方までサスティナブルな方法が考えられている。
本展は作品の輸送方法にまで着目し、二酸化炭素を多く排出する航空機を避けて、ベルリンから東京まで鉄道と船で運ばれた。<クリティカルゾーンのの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no.1-12>という作品は輸送中の動きや揺れを記録する装置によって、移動の過程が絵となって表れている。
また、<太陽の中心への探査>という作品で使用する電力は外部に設定されたソーラーパネルから賄われており、その架台がデザインされている。
さらに展覧会マップはFSC(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)のMIX Paperが使用されており、サステナブルな紙が使用されていたり、「この展覧会マップは環境配慮を目的とした再利用を行なっています。展覧会出口での回収にご協力ください。」という一文が書かれている。
FSCミックスとは、FSCが認めている適格な原材料(FSC100%、FSCミックス、FSCリサイクル、FSC管理木材、回収原材料)が複数使用されている製品に付けられる。
https://jp.fsc.org/jp-jp/-22
このように、ある作品を構成する過程でサスティナブルな問いかけが生まれ、それが作品へと転換する。サステナブルな連続性が展覧会全体を覆っている。
サステナビリティの研究室
個人的に好きな展示の方法の一つとして、リサーチや研究の過程を展示するものだ。サステナブルな商品開発の過程が陳列しているようなもので、厳密にアート作品と異なると疑問を呈する人もいるようだが、完成形態のみを提示するアート作品よりも、作家の思想や伝えたいことがわかり、さらに深い部分で問いかけや気づきが得られる点では、オラファーの「アート作品が、みなさんのフィーリングをホスティング[=受け入れる場を提供]してくれている」というオープンな性質が感じられる作品となっている。また、どれも発展の途上の状態、可能性のままに提示しているのも、何かを表現したり、確定した未来を押し付けるのではない。このような部分にティモシー・モートンの環境哲学との親和性が感じられる。
作品の運動
「アイデアは、出発点からずうっと一つの軌跡をたどっていったわけです。運動なんです。ぼくとしては、創造性というものは、こういった活動が世界にどういう帰結をもたらすか、ということなのではないかと言ってみたい。一つの作品が創造的なのは、それが周囲に対して何かをおこなうからだ、と。」
「ぼくにとって、あるアート作品の成功を測る尺度の一つは、それが起源から[違う場所に]旅する能力をもっているかどうか、ずっと後になってものの考え方や見方が変わっても、引き続き現代的な意味合いをもっているかどうか、だ。」
この図録でのオラファー発言は、オラファーの作品が解決案を提示するのではなく、アートにできるのは人々に気づきを促すことだけ、という考え方を表している。また、アイデア自体にサステナブル性を見出しているように感じる。このサステナブル性は「旅する能力」すなわち運動性にある。人に気づきを与えたり、突き動かしたりするという運動である。そして運動エネルギーをアートに与えるのがアーティストの役割である。オラファーの作品には作家の手を離れた後も作品は運動を続けるという、モノの自律したイメージが読み取れる。これは単純に作品が動いていたり、鑑賞者との対応や状況の変化によって状態が変化する作品などからもみられる。
これはすなわち、作品の消費のされにくさ=サステナブルを目指しているのではないかと、そのようなことを考える。