消費されない住まいへ

ここまで、暮らし、場所、建築、素材、つくり方について考えてきました。

一つひとつは別々のテーマに見えるかもしれません。

しかし、これまで考えてきたことには、共通するものがあります。

それは、住まいを一つの答えや、一つの関係だけで完結させないことです。

今の暮らしだけではなく、これから変わっていく暮らしを考える。

敷地だけではなく、その場所が周囲や地域と持つ関係を考える。

一つの使い方だけではなく、異なる使われ方の可能性を考える。

決められた材料やつくり方だけではなく、人や材料との新しい関係を考える。

そうやって住まいを考えていくと、その建物は少しずつ、現在の自分たちだけのものではなくなっていきます。

時間に開かれ、
人に開かれ、
場所や地域に開かれていく。

そのことが、住まいが長く残っていくための一つの条件になるのではないでしょうか。

今だけに最適化しない

家を建てるとき、私たちはどうしても「今の自分たち」にとって良い家を考えます。

今、どんな暮らしをしたいのか。

どんな空間が欲しいのか。

何が必要なのか。

もちろん、それは大切なことです。

しかし、暮らしは変わります。

自分自身が変わり、家族が変わり、仕事や生活の仕方も変わっていきます。

今は必要なものが、将来は必要なくなるかもしれません。

反対に、今は想像していなかった使い方が、将来必要になるかもしれません。

だからこそ、住まいを考えるときには、現在の暮らしに最適化するだけではなく、その前提が変わったときにも、新しい可能性を見つけられるかを考えておきたいと思います。

それは、何でもできるようにしておくということではありません。

一つの使い方だけに住まいの価値を閉じないということです。

自分が変われば、家の見え方も変わる

長く暮らしていると、同じ家でも感じ方が変わっていきます。

建てたばかりの頃には気づかなかったことが、何年も暮らすことで好きになることがあります。

自分の生活が変わることで、これまでとは違う場所の価値に気づくこともあります。

家族が増えたり、独立したりすることで、同じ空間の意味が変わることもあります。

つまり、住まいの価値は、完成したときにすべて決まるものではありません。

住む人が変われば、同じ建築でも違った意味を持つことがある。

その余地を持っていることは、住まいを長く使う上で大切なことだと思います。

そのためには、物理的に変えられることも重要です。

壊れたものを直せる。

必要に応じて交換できる。

暮らしに合わせてつくり変えられる。

しかし、変えられることだけでは十分ではありません。

どれだけ使い方を変えられても、その建物に新しい魅力を見つけられなければ、使い続けたいとは思わないかもしれません。

だからこそ、長く使える住まいには、変えられることと、変わりながら価値を持ち続けられることの両方が必要になります。

自分たちの家から、誰かの場所へ

さらに時間を進めてみます。

何十年か後、自分たちがその家を使わなくなることもあるでしょう。

そのとき、その建物はどうなるのでしょうか。

別の家族が住むかもしれません。

仕事場になるかもしれません。

店や活動の場所になるかもしれません。

あるいは、今とはまったく違う使われ方をするかもしれません。

そのときに、今の住み手にとっての正解しか残っていなければ、次の人にとっては使いにくい建物になってしまうかもしれません。

一方で、現在の暮らしを大切にしながらも、その先に別の使い方や価値を見つけられる余地があれば、建築は次の時間へと受け渡されていきます。

自分たちのためにつくりながら、未来の誰かにも可能性を残しておく。

そうすることで、住まいは一つの家族だけのものから、別の誰かにとっての場所へと変わっていくことができます。

建物の外にも広がっていく

そして、住まいが持つ関係は、建物の中だけにあるわけではありません。

その家が建つことで、周囲との関係が変わることがあります。

庭や道路との関係。

近隣との関係。

地域にある場所や人との関係。

家の中だけで完結させず、その場所にあるものと関係をつくっていくことで、住まいは地域の中にも位置づけられていきます。

それは、地域に対して何か特別な活動をするということだけではありません。

その建物がそこにあることで、周囲に新しい使われ方や関わり方が生まれることもあります。

そう考えると、住まいは一つの建物でありながら、その外側にも関係を持つ存在になります。

消費されない住まい

「消費されない」というのは、単に壊れないことでも、古びないことでもありません。

今の暮らしだけに価値を閉じない。

一人の住み手だけに価値を閉じない。

一つの使い方だけに価値を閉じない。

建物の中だけに価値を閉じない。

そして、一つの意味だけに回収しきらない。

そうすることで、暮らしが変わっても、使う人が変わっても、地域が変わっても、その建築の中に新しい価値を見つけられる可能性が残ります。

そのためには、家を建てるときに「今、どんな家が欲しいのか」だけではなく、

この家は、どこまで先の時間を受け止められるだろうか。

自分たちが使わなくなった後、誰かにとってどんな場所になれるだろうか。

と考えてみることが大切です。

今の自分たちにとって良いこと。

これから変わっていく暮らしにとって良いこと。

家族にとって良いこと。

未来の誰かにとって良いこと。

そして、その建物が建つ地域にとって良いこと。

それらを一つの答えにまとめるのではなく、それぞれの関係を持ったまま考えていく。

そこには、今の暮らしだけでは生まれなかった、別の可能性が生まれるかもしれません。

家を建てることは、今の暮らしのために場所をつくることです。

同時に、まだ見えていない未来の暮らしのために、可能性を残しておくことでもあります。

完成した瞬間に価値が決まるのではなく、時間の中で新しい意味を見つけられる。

そんな住まいをつくることが、消費されない建築につながっていくのだと考えています。