前の記事では、暮らしや場所、現実的な条件から見えてきたことを重ね合わせ、その住まいで何を大切にするのかを考えました。
そして、その考えを具体的な建築へとつなげるために、建築コンセプトという考え方を紹介しました。
では、住まいの哲学を、どのような建築として形にしていくのでしょうか。
架構をどのように考えるのか。
どのような空間をつくるのか。
屋根や外壁をどのような形にするのか。
どのような素材を使い、家具や設備をどのように取り入れるのか。
建築を構成するさまざまな要素を考え、それらをどのように関係づけていくのか。
その過程で、住まいの哲学は、少しずつ具体的な建築のあり方へとつながっていきます。
建築コンセプトは、住まいの哲学からあらかじめ一つの答えとして導かれるものではありません。
架構や空間、素材、家具など、それぞれの可能性を考えながら、その住まいをどのような建築としてつくるのかを探していく。
そうした具体的な検討を重ねる中で、建築コンセプトも少しずつ形づくられていきます。
ここから、建築を構成するさまざまな要素が、住まいの哲学とどのように関わり、一つの建築を形づくっていくのかを考えていきます。
関係に開き、一つの建築として存在する
建築は、単独で存在しているわけではありません。
その場所の環境。
周囲の建物や風景。
そこで暮らす人の行為。
構造や素材の性質。
時間とともに変化する暮らし。
建築は、さまざまなものと関係しながら形づくられています。
例えば、建築をどの方向に開くのかは、光や風だけでなく、周囲の風景や人との関係にも影響します。
屋根の形や軒の深さは、雨や日差しへの対応だけでなく、建築の外観や周囲との距離のつくり方にも関わります。
素材の選択は、空間の印象だけでなく、使われる時間の中で、建築がどのように変化していくのかにも影響します。
建築を考えることは、一つひとつの要素を個別に決めることではありません。
場所や環境、暮らし、素材、時間との関係を読み取り、それぞれをどのようにつなげるのかを考えることです。
しかし、建築は、そうした関係を集めただけのものでもありません。
暮らしや環境との関係を整理し、屋根や壁、空間、素材の役割を説明したとしても、その建築が持つすべてを捉えることはできません。
建築には、要素や関係だけでは捉えきれない、一つの存在としてのまとまりがあります。
それは、建築の形や空間、素材、時間が重なり合うことで生まれる、その建築に固有のあり方です。
だからこそ、設計では、周囲との関係に開かれた建築を考えると同時に、一つの建築として、どのような存在をつくるのかを考えることも重要になります。
暮らしや場所に応答しながらも、それらの要望や条件だけには還元されない。
さまざまな要素を受け止めながらも、一つの建築として固有の存在を持つ。
建築を形にすることは、関係に開かれていることと、一つの建築として存在することの両方を考えることなのだと思います。
架構から、その場所に建つ建築を考える
架構は、建物を支えるための骨組みです。
しかし、架構の役割は、それだけではありません。
柱や梁、壁の配置は、建物を支えると同時に、どのような空間をつくることができるのかを決めます。
また、建築をどのように地面に建てるのか。
どの方向に開き、どのように周囲と関係するのか。
光や風、雨や日差しをどのように受け止めるのか。
架構の考え方は、建築がその場所にどのような姿で存在するのかにも関わります。
屋根の形や軒の深さも、建築と環境の関係をつくる重要な要素です。
例えば、深い軒は、夏の日差しや雨を受け止めながら、室内と庭の間に中間的な場所をつくることができます。
一方で、大きな屋根を架けることで、柱の少ない大きな空間をつくることもできます。
架構を考えることは、構造の安全性を確保するだけではありません。
その場所の環境にどのように応答し、建築をどのような姿で存在させるのかを考えることでもあります。
空間から、暮らしとの関係を考える
架構によって生まれる可能性をもとに、そこでどのような暮らしが生まれるのかを考えます。
間取りは、部屋の数や配置を決めるためだけのものではありません。
家族との距離。
一人で過ごす時間。
庭や外部との関係。
日々の行為が重なり合う場所。
空間は、さまざまな暮らしを受け止めながら、人と人、人と場所との関係をつくっています。
例えば、「家族が自然に集まる住まい」を考えたとします。
その答えは、大きなリビングをつくることだけではありません。
それぞれが別のことをしながら、互いの気配を感じられる空間。
家事や趣味を通して、自然に会話が生まれる場所。
必要なときには集まり、別の時間にはそれぞれが落ち着いて過ごせる距離。
同じ暮らしへの思いからも、さまざまな空間のあり方を考えることができます。
また、空間は、現在の暮らしだけを受け止めるものではありません。
家族構成や生活の変化によって、使われ方が変わることもあります。
一つの用途に固定するのではなく、新しい使われ方を受け入れる余地を持たせることで、建築は長い時間の中で、異なる暮らしを受け止めることができます。
素材と時間を考える
素材は、建築の表情をつくる重要な要素です。
しかし、素材は、空間の印象を整えるためだけに使われるものではありません。
木には、木目や手触りがあり、時間とともに色や表情が変化します。
石には、重さや硬さがあり、一つひとつ異なる模様を持っています。
金属は、光を反射し、使われる環境によって変化していきます。
素材には、それぞれ固有の性質があります。
設計者が与えた意味や役割だけでは、素材が持つすべてを捉えることはできません。
また、素材は、完成した瞬間の姿だけで存在するものでもありません。
日差しや雨にさらされる。
人が触れ、使い続ける。
傷や汚れが重なり、少しずつ表情が変化していく。
そうした時間の積み重ねによって、建築には新しい価値が生まれます。
素材を選ぶことは、完成したときの美しさだけを考えることではありません。
その素材が、時間の中でどのように変化し、建築とどのような関係をつくっていくのかを考えることでもあります。
家具や設備から、暮らしの変化を考える
家具や設備は、建築に後から加えるものとして考えられることがあります。
しかし、それらも、空間のあり方や人の行為を大きく変える存在です。
例えば、造作家具は、収納のためだけのものではありません。
空間をゆるやかに分ける。
人が集まる場所をつくる。
座る、置く、飾るといった行為を受け止める。
家具は、暮らしの中に新しい居場所や使い方を生み出すことができます。
一方で、設備は、日々の快適さを支えるだけではありません。
将来の交換や更新のしやすさは、建築を長く使い続けるための重要な条件になります。
設備の更新を考慮することは、建築を変化のないものとしてつくるのではなく、時間の中で手を入れながら使い続けるための仕組みを考えることでもあります。
家具や設備も、建築全体に従属する付属物ではありません。
それぞれが暮らしに働きかけ、新しい行為や変化を生み出す可能性を持っています。
それぞれを重ね、一つの建築をつくる
架構、空間、屋根、外壁、素材、家具、設備。
建築は、さまざまな要素によって形づくられています。
それぞれには異なる役割があり、それぞれが異なる可能性を持っています。
架構は、建築を支え、その場所に建つための条件をつくります。
空間は、人の行為や暮らしを受け止めます。
素材は、時間とともに変化し、建築に新しい表情を与えます。
家具や設備は、日々の暮らしを支えながら、使い方の変化にも関わります。
それぞれを個別に考えるだけでは、建築は一つのまとまりになりません。
一方で、すべてを一つの考え方に従わせれば、それぞれが持つ可能性を失ってしまうこともあります。
大切なのは、それぞれの役割や性質を理解しながら、互いの関係を考えることです。
場所や環境との関係。
暮らしや人との関係。
素材や時間との関係。
そして、それらを受け止めながら、一つの建築としてどのような存在をつくるのか。
建築は、さまざまな関係に開かれながら、同時に、一つの場所として固有のあり方を持っています。
その両方を考えながら、架構や空間、素材、家具などを重ねていくことで、その住まいにしかない建築が少しずつ形づくられていきます。
次は、こうした建築を、誰と、どのような関係の中でつくっていくのか。
設計者、施工者、職人、住み手との関わりを含めながら、「つくり方」について考えていきます。

